北山川水系前鬼川 深仙俣谷③ 2017年8月19日~20日
目覚めた、とゆうよりは顔とシュラフカバーの中を這いずり回る地虫に起こされた。
身体が痛痒い。 それよりも風の無い静かな谷に響く重い足音の方が気になった。
ツェルトから這い出て、まずは火種の燻る薪に息吹を与え火を蘇らせる。
時刻は23時、夜明けまではまだ遠い。 再び寝るにしても完全に目が冴えている。
無理に寝ようとせず、自然の摂理に任せてダラダラとした時間を過ごすのも悪くない。
腹が減れば食う、眠くなれば寝る。 シンプルで良い。 ぼぅっと火を見つめて薪を足す。
遠くで乾いた落石の音を聞く。 時には地鳴りのような大きな落石の音を聞くこともある。
闇の中に目が光る。 沢山の目がコチラを伺う様に見ているが何者かは分からなかった。
彼らは私に近付こうともしない。 私も彼らに近付く必要が無いので相手にしなかった。
いつの間にかそれらは居なくなるが、闖入者を監視しているのか何かの気配は消えない。
空が哭く。 雷鳴だろうか? 空に目をやったが覆い茂る木の葉と枝で何も見えなかった。
火の温もりに抱かれていつしか眠る。 気が付くと5時、明るくなり始め鳥の囀りが響く。
飯を炊いて食い、ゆっくりと片付け用意をする。 時計を見ると6時半を回っていた。
硬い身体を慣らしながら出発する。 空は抜けたように青く、暑い1日になりそうだ。
遥か向こうに五百羅漢の岩塔群が見える。 間もなく二俣に出合うが放射状の分岐点。
空鉢谷、深仙谷、大日谷、杖谷の支流が一気に流れ込む為、方角の確認が必須となる。
それでも藪で谷の入口を見逃し、空鉢谷を進んでいたので尾根を越えて軌道修正した。
深仙谷は谷なのかどうか分かり難い地形だった。 出発から1時間、早くも暑さに喘ぐ。
水の涸れた、風の無い谷筋を登る。 もはや沢登りではない、苦行の様な登高を繰り返す。
羽虫の襲来に悶えながら登ると水の音。 再び潤沢に流れ出る沢に出合いホッとする。
装備を解き釜に飛び込む。 火照った身体から熱気が抜けて行く気持ち良さに酔い痴れる。
稜線に登るまで水場は無い。 重くなるが多めに補水する。 脱水を起こすよりはマシだ。
涸れた谷を登り進むと、左側に大きく崩落した先に大日岳の姿を見て現在地を特定した。
コンパスをセットし直すが地図に無い尾根と水線に惑わされ、延々と道迷いの罠に嵌る。
谷の両岸も立ってきたので、良さ気な所で尾根に登ったがこれが間違いの始まりだった。
進行方向が岩壁に阻まれる。 四天石と思った場所が大日岳の基部に突き当たっていた。
当の四天石は遥か右方向先に見える。 面倒だが戻る方がリスクが少ないと判断した。
道迷いのリスクを減らせるが滑落のリスクはある。 とにかく何をしても安心は出来ない。
懸垂するにしても微妙だったので、トラバース気味にクライムダウンして谷へ降り立った。
支点にするにしても細い立木が多く、グズグズだったので支点としては信用ならなかった。
四天石が見えた場所でコンパスを合せていたお陰で、何とか正しい方向を導き出せた。
地図に無い谷筋を登る。 直に尾根へ逃げるが待ち構えていたのは背丈ほどの藪漕ぎ。
草付きに足を取られ息を切らし藪を漕ぐ。 何をやっているんだろうと弱気になる。
急峻な草付きとガレを全身泥まみれになり登り続け、ようやく眼前に大きな岩塔が現れた。
四天石の第一石で間違いない。 目的の場所に辿り着いたことで足元から安堵感が沸く。
第一石の麓には大きな洞窟があり、ここが十一面ノ窟と呼ばれる行場で間違いなさそうだ。
この場所は大峯縁起に「四天石ノ下ヨリ第一石ノ面ニ、十一面ノ岩屋有」と記されている。
十一面とは十一面観音のことだが、奈良時代の修験道、真言宗・天台宗との関連性は不明。
残置のシュラフと毛布、真新しい道具と札から察するに現在でも行に使われているようだ。
振返ると大日岳から伸びる稜線の先に千手岳がある。 ここで籠り行でもするのだろうか?
長く守られてきた伝統と、現在でも行われている修験道の厳しさを窺い知ることが出来た。
第一石から第二石間にも気になる洞窟があったが、これらが史跡かどうかは判らなかった。
四天石を右に見ながら巻き気味に奥駈道を目指すと、間もなく髭塚と香精水に辿り着いた。
10時20分、予定の11時より少し早く奥駈道に着いた。 何とか無事に帰れそうだ。
灌頂堂、深仙ノ宿、新宮山彦ぐるーぷの管理のお陰で綺麗な状態が維持されている。
宿の中で装備を解き、重くなったザックを背負い苔で滑りながら転倒するも何とか下山。
単独行で久しく自分を見つめ直す時間の中、やはり自分は孤独な人間だと気付かされた。
COMMENT
No title
こんにちわ♪
なんか毎回ハラハラしながら読ませて貰ってます。
道迷いしてもすぐに軌道修正できるのが凄いですね!
山の中で一人で、ツエルトで寝るとか私なら怖くて無理ですが
一人の時間を楽しむには最高だったでしょうね!
お疲れ様でした!
No title
かなりディープな所に行かれましたな(笑)
このあたりは自然の荒々しさと美しさで
満たされているんですね。
私は無理、行く人を選ぶと思います^_^
次はどこへ行かれるのでしょうか。
なによりご安全にお願いします★
kaka様へ
いつも有難う御座います^^
3部作にしなくても書けたんですけど、
今回は何となく内側のことも描写したかったのでw
単独だと色々と考えたりしながらなので、
善し悪しが両極端だなぁと思っています。
特にマイナールートやバリエーションってなると、
何かあっても自力で乗り越えないといけないし。。。
でも今回の山行は自分にとって良かったなぁと思っています。
ありがとうございました!
mojimaro様へ
コメント感謝感激雨嵐ですw
大峯のディープゾーンに行ってきましたが、
あれは初秋か初冬、残雪に稜線から降りた方が良いかもw
谷から行くもんじゃねぇって何度も思いましたよ。。。
地図にない谷筋に何度も騙され続けていい加減に凹みましたw
宿にするには良さ気な心霊スポット十一面ノ窟。
ここで宿泊してみられては如何でしょうか?w
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